アール・ヌーヴォーとタルト・タタン。

カフェ・ラ・クレーマイエ

TEXT/REINA ABE, PHOTO/NAOKO TAKAHASHI

「これだけは、店の柱として続けてきた」という名物タルト・タタン。香ばしい焦げ目がついたそれは、口に入れると、意外にもジューシー。りんごの果汁がじゅわっと広がります。作り方はいたってシンプルで、りんごをバターで煮て表面を焦がすだけ、といいますが、時期により使うリンゴの種類で焼き方が変わり、それに対応するのに試行錯誤を重ねたそうです。
オープンは平成3年。「クレーマイエ」は、古いフランスの絵に描かれていたカフェの店名からとり、「自在鉤」「引っ越しパーティ」を意味するのだそうです。自在鉤とは、かまどの上に吊るし、鍋をかける道具のこと。自在鉤を吊るしてはじめて料理の準備ができることから、フランスでは住まいの証と考えられています。

タルト・タタンのほかに、チーズケーキやガトー・ショコラも。開店当初はケーキとコーヒー、紅茶がメインでしたが、今ではニョッキ・ゴルゴンゾーラ、キッシュ・ロレーヌ、パスタなど食事メニューもたくさん。地域の人のためにと、食事のメニューを増やしていったそうですが、北海道厚生年金会館(ニトリ文化ホール)や札幌市教育文化会館でバレエや演劇を観賞したあとに立ち寄る、という女性客も多くいます。あるときには、映画クルーが札幌ロケの間じゅう通いつめていったそうです。

なんといっても印象的なのは、アール・ヌーヴォーのインテリア。ラリックのガラスやカップ&ソーサー、スプーンなど、調度品のひとつひとつからこだわりが感じられます。居心地のいい空間は、一席一席、実際に座って確かめながら配置していったのだそうです。オープンにあたっては、美術に造詣の深い知人や喫茶店経営者など、東京や札幌のさまざまな人からアドバイスをもらったという佐原さん。「いろんな人の思いが入っているんですよ」と店内を見渡しながら教えてくれました。「吉田理介」の名前で音楽活動も長年続けており、お店では時折ライブが開かれることも。一杯のコーヒーを楽しみながら、アートと音楽に出会える場所でもあるのです。