時間が止まった。

喫茶・軽食 ミカド

TEXT/YUSUKE TOKOSHIMA, PHOTO/NAOKO TAKAHASHI

オレンジが鮮やかなテント生地の屋根。流線が可愛らしいクラシックなロゴに、緑のレトロなカーテン。「時が止まる」とはこんな光景のことを言うのでしょう。喫茶・軽食 ミカドは開業から45年間、変わらぬ佇まいでこの地にあり続けています。ママの塚本さんは、激動する時代の流れを静かに見つめてきました。“ミカド”の名前は「味(み)・香(か)・音(ど)」に由来するそうです。コーヒーの味と香り、そして音楽をゆっくり楽しんでほしい。そんな想いがこめられています。かつてはレコードや有線放送がクラシック音楽を奏でていましたが、今は、カウンターの角に置かれたテレビの音が静かに鳴っています。

インテリアの一つひとつが重厚で趣があり、当時の栄華が窺えます。小さなカウンターと、ボックス席がいくつかあり、かなり広い作り。最盛期にはさらに補助席まで引っ張りだす賑わいでした。アルバイトは常時4~5人、8:30の開店から客が入り、夜も12:00くらいまで営業していたそうです。喫茶店・レストラン・BARと、客や時間帯によって求められる役割には幅がありました。今は1人で切り盛りする塚本さんですが、定休日は月にわずか3回だけ。今でも足繁く通ってくれる常連をたくさん抱えていて、「あの人が来るかなと思ったら、なかなか休めないし、辞められないよ」と、凛々しい表情で話しくれました。

何の変哲もないコーヒーも、空間や、薫り、塚本さんの言葉、すべてが相まって感涙の一杯。暑い時期に作るというひやむぎは480円。見た目の印象よりもダシが効いた濃いめのしっかりとした味わい。いつ作ったのか忘れてしまったというお店のマッチは、可愛らしさと昭和の哀愁がにじみ出た傑作。「若い女の子が欲しがるんだわ」と塚本さんはちょっと嬉しそうに言います。街角に昭和がある。訪れるだけでも価値のあるお店なのです。