本場の味まで、駅から2分。

玉林酒家

TEXT/REINA ABE, PHOTO/NAOKO TAKAHASHI

「キンキラキンでしょ」と店内を指さして笑わせてくれる店長の中井さん。かと思えば、厨房の料理人に流暢な中国語で注文を伝えます。優しそうな顔をのぞかせる料理人たちは、全員が中国出身。もちろん腕の確かな人ばかりです。炒め方や味付けは全員ですり合わせしており、新しい料理人が入ると、1か月以上かけてお店の味を教え込むそうです。料理はすべて、中井さんが何度も試食して味を細かく調整したもの。日本人が苦手な香辛料は控えめに、けれど、本場の味はしっかりと残すこと。その味を守るため、年に3〜5回は中国に足を運び、食材や調味料を買い付けたり、いろいろなお店を食べ歩きして、中国料理の動向を知る努力は欠かせません。

ポイントは火加減と速さ。彩り豊かな食材が鍋と宙とをせわしなく往復します。仕上げに熱したラー油をかけて出てきたのは、どんぶり一面まっ赤な「辛湯(ラータン)」。見るからに辛そうですが、ひと口すすればやっぱり猛烈に辛い。けれどその奥から旨みが現れて、もう止まりません。四川料理の基礎となる、日本でいう味噌汁のような料理なのだそうです。ピンと張ったピーマンの食感が心地よい「チンジャオロース」、その名の通り口の中でえびが弾ける「えびのプリプリ炒め」。どの一品も、ふだん食べ慣れた中国料理とは違う美味しさです。

広い店内には、イラストも添えられた手書きのメニュー、すべて中国で買い揃えたという原色の飾り、みんな大好きパンダ、西安や上海の農民画家による絵画などがそこかしこに。そんな賑やかさもお店全体から熱い歓迎を受けているようで心地よく、食欲だって盛り上がるというもの。つねに店内の温度に気を配り、お客さんに「ご飯おかわりしてくださいね」とさり気なく声をかけるスタッフの存在も大きいようです。聞けば、お店のコンセプトは「中国の庶民のお店、再現」。肩肘張らない温かさと美味しさがある、その通りのお店でした。