知る人ぞ知る、穴場中の穴場。

肉の浅鞍

TEXT/YUSUKE TOKOSHIMA, PHOTO/NAOKO TAKAHASHI

車一台がギリギリ通れる小径の奥、白いコンクリート壁の民家の2階に、知る人ぞ知る名店「肉の浅鞍」はあります。窓から赤い提灯がぶら下がっていれば、営業中の合図です。静かなところで美味しいお肉を楽しんでもらいたいと、店主の千生(せんなり)さんが円山のこの場所を選びました。お客に「わざとこんな場所でやってる」なんて言われることもあるそうですが、表通りでやりたかったけど、空いてるのがここだけだったと笑い飛ばします。絨毯が敷かれた居間のような空間に、むき出しの換気扇、テーブルの上に無造作に置かれた七厘、独特のメニュー表など、無機質でちょっと不思議な雰囲気の店内。はじめて訪れた人はちょっと不安になるかもしれませんが、出てくるお肉や料理はどれも絶品。このギャップもまた、このお店の魅力です。

肉の浅鞍の代名詞は塩ジンギスカン。「さし」の入り方が抜群という、厳選したサフォーク種の肩ロースを岩塩のミックススパイスでシンプルに味付け。ごま油で和えたネギと絡めていただきます。臭みが全くなく、ラムが苦手な人でも食べられると評判です。和牛サガリは、すきやきの要領で玉子の黄身をつけていただきます。脂肪分が少ないサガリに甘みがプラスされ、いっそう美味しくなるそうです。〆のごはんは牛トロライス。新鮮な牛肉のフレークに特製の「やみつきタレ」をさっとかけてかきこめば、口一杯に肉の旨味と甘みがひろがります。お肉で満腹になっても、これは別腹です。

千生さんは、すべての肉を大きな「塊」の状態で仕入れています。自分の目で状態を見ながら、一番おいしいところを選んで切る。そして、一番おいしい食べ方で提供したいと言います。そんなこだわりや美味しさの魅力に取り憑かれて常連客が足しげく通うのも納得です。週末には地元の家族連れが多く、「お座敷だからじゃない?」と謙遜しますが、子ども連れでも楽しめるという証でしょう。「満足というか驚かせます」と千生さん。道順は忘れても、お店のことは決して忘れません。