羊肉が食べたくなったら、ここへ。

札幌 おいしいジンギスカンの店

TEXT/REINA ABE, KAGEHIRO WATANABE, PHOTO/NAOKO TAKAHASHI

今回は地元で愛されている4軒のジンギスカン屋さんをご紹介いたします。北海道民なら誰しも子供の頃から慣れ親しんでいるジンギスカン。他県ではあまり一般的ではない料理ですが、北海道では海水浴や花見、キャンプなど、あらゆるイベントで羊肉を焼いている光景を目にします。ビールの本場と呼ばれる北海道。ビールと合うジンギスカン。地元で愛されている理由はそんなところにもあるのかもしれません。家庭で食べることが多い料理ですが、札幌には専門店もたくさんあります。地元の方もそうじゃない方も、各店のこだわりの味をぜひご堪能ください。

羊牧場、直営。
ジンギスカン 羊飼いの店『いただきます。』

ロース、ヒレ、サガリ、レバー、ジンギスカン……。一見、焼肉店かと思うようなメニューが並びます。『いただきます。』は、北海道産羊肉専門のジンギスカン店。夜ともなれば、地元客や観光客で大賑わいです。

北海道民のソウルフードともいえるジンギスカンですが、オーナーは、大多数が輸入肉であることに疑問を持っていたそうです。そして意を決し、2005年、なんと緬羊牧場をスタート。由仁町にある牧場には獣医も常駐し、現在では500頭以上を飼育しています。そこで生まれ育った純血サフォーク種は、東京の一流フレンチレストランからも引き合いがあるほど、品質は折り紙つき。すすきのの店舗には食肉加工所を併設しており、熟成させた枝肉をほぼ毎日解体して提供しています。

よく熱した鍋にまずのせられるのは、牛脂や豚脂ではなく羊脂。独特の甘みがあるそうです。どのお肉も俗にいわれる“羊臭さ”はなく、あっさりとした中にコクのある味わい。8割のお客さんはアラスカ産岩塩と粒こしょうで食べるそうです。また「ロース」は、塩こしょうを付け、レモンにこすりつけて食べるのがおすすめ、と教えてくれました。お肉は、注文が入ってから切るのはもちろん、食感に合わせて部位ごとに切り方を変えているそうです。長年この食肉業界に携わってきたというスタッフの方は、「羊肉は牛や豚と比べて小さく、繊維の入り方も特殊で難しいんです」と話します。
羊を飼うことから始めたジンギスカン店。そこには、美味しさへの並々ならぬ情熱があふれていました。


羊の旨みを楽しみ、さらりと〆る。
炭焼き成吉思汗 やまか

ジンギスカンの激戦区すすきのの一角にあるこのお店。老舗の質屋さんを改装した名残で、中には蔵の立派な扉があったり、大正時代の番頭さんの半纏が飾ってあったりします。そのせいもあるのか親しみやすい雰囲気が漂っていて、実際、長居するお客さんが多いそうです。一人で来る女性の方も増えているとのことでした。

初めてこのお店に行くのならまずは「盛り合わせ」を頼むのがおすすめです。手切り生ラム・ラム肩ロース・マトン肩ロースがセットになっているので、その中で気に入ったお肉を追加で頼みましょう。お店でさばいている枝肉の中から1日に5人前くらいしかとれないというサーロインもやっぱりおすすめです。柔らかくてクセがなく、両面を10秒焼くくらいでおいしく食べられます。このお肉は開店後すぐになくなってしまうそうですが、予約しておけるとのことでしたので、気になる方は事前に連絡しておきましょう。

ジンギスカンはタレと塩こしょうのどちらかお好みで。タレは甘さひかえめでさらっとしているので、胃がもたれません。ジンギスカンの後の〆は、このタレにダシを入れたつけ汁の「あがりラーメン」で。ほとんどのお客さんが頼むという人気メニューで、特製の細めんのおかげで、羊肉を食べた後でもすんなりとお腹に入ります。ジンギスカン好きの方々は、ラムのソーセージやベーコンもお試しあれ。普段食べているものと少し違う旨みがクセになります。餃子のような「羊(ラム)のパリパリ焼」はホームページでも買えるそうですので、お腹がいっぱいで食べられなかったときはそちらで。このお店の羊づくしを味わえばきっと、牛肉や豚肉と違う羊肉の旨みをもっと楽しめるようになるでしょう。


産地にこだわりあり。
札幌成吉思汗しろくま

濃紺の暖簾に描かれたしろくまが迎えてくれるお店は、カウンターのみの11席。店名は、北海道らしく、子どもからお年寄りまで親しまれるように、という思いで付けたそうです。お客さんから周年祝いに贈られたという、しろくまの置き物やぬいぐるみがそっとカウンターを見守ります。

聞けば、羊肉は同じ月齢でも産地によって味が違うといい、オーストラリア産ラム・マトン、アイスランド産ラム、北海道産ラムを提供。北海道産ラムは白糠町にある「茶路めん羊牧場」から直接、毎回1~1.5頭を丸ごと仕入れています。お肉に合わせるのは、醤油ベースのさらりとしたタレ。飽きのこない味は、開店以来ずっと変わりません。細かく挽いたモンゴル産の岩塩もおすすめだそうです。

ジンギスカンには不向きな肩や首回りの固い部分を無駄にしないように、と作り始めたのが「北海道産羊のカレー」。10時間ほど煮込んで作るというこのカレー、大・中・小のサイズがあるのも嬉しいところ。ジンギスカンの〆に注文する人も多いそうです。そのほか、羊のレバー、ハツ、サガリ、タンなどを味わえる「内臓盛合わせ」や「道産羊のソーセージ」がメニューに並び、北海道産羊肉のさまざまな味わいが楽しめます。合わせる野菜やごはんも北海道産を選んでいるといいます。壁に貼られたメニューや羊の紹介から感じられるのは、素材への深いこだわり。“なぜかもう一度食べたくなる”ジンギスカンは、そんな思いの結晶です。

札幌成吉思汗しろくま 札幌本店

札幌市中央区南6条西3丁目 ジョイフル札幌 ジャスマック1番館1F
TEL.011-552-4690
営業時間/月~水 18:00~翌01:30
     木~土 18:00~翌03:00
定休日/日曜・祝日


ステーキのように羊を食べる。
ジンギスカン アルコ

狸小路7丁目、札幌市中心部の喧騒から少し離れた商店街の一角にこのジンギスカン屋さんはあります。ラーメン店の一徹さんと店舗がつながっていて、それもそのはず、同じマスターのお店。一徹さんと同じく地元で愛されている名店です。

小ぢんまりとした店内にコの字型のカウンター、そして七輪。夜になれば、ほの暗い店内で炭火の優しい灯りが居心地の良い空間を作り出します。ジンギスカンを頼むと出てくるのは肩ロース、ロース、バラ、モモの盛り合わせです。マスターの言葉を借りるなら「ステーキを食べているようなもの」。鍋の上で直接焼いて味わってください。野菜にのせて蒸し焼きにするのはご法度です。このお店の甘みがないタレで食べると、旨みの違いを感じながらそれぞれの肉をしっかりと味わうことができます。

このお店では「羊の筋煮込み」もおすすめです。このメニューは、かつてコックだったというマスターらしい洋風なもの。ビーフシチューのような味わいで、トマトの風味が感じられる柔らかいスジ肉が、添えてあるパンとよく合います。ジンギスカン屋さんとしては珍しいこのメニューは、肉を無駄にできないという料理人としての信念から生まれたもの。ジンギスカンを食べながらビールを飲み、羊の筋煮込みと一緒に赤ワインを頼む、そんな贅沢な楽しみ方ができるのはこのお店ならでは、このマスターならではです。